初めてここに来たのは
10年前の夏のこと。
夥しい数の安宿が建ち並ぶバンコクのカオサン・ロードは、旅人なら誰もが訪れる“聖地”だ。
安宿と土産物屋、飲食店、両替商などが軒並みの一直線の往来。
車道には露天がびっしりと繰り出して、その間をけたたましいエンジン音を響かせて、トゥクトゥクやバイクが走り抜ける。
喧噪の絶えない往来のパワーは、いつも旅人の心を高揚させてきた。
しばらくアジアの旅を離れて、ここを訪れたのは7年ぶり。
変化の激しいバンコクで、7年はひと昔どころか大昔と言えるくらいの時間だ。
かつての見慣れた往来は、僕が知ってるよりも確実にパワーを増している。
強力な磁力に吸い寄せられるように、連日多くの旅人と、彼らを相手に商売を営む現地人が集まってくる。
聖地が大きく変わってしまったのか、僕が歳を取ったのか。
7年ぶりに歩いたカオサンは、何か吹っ切れたような顔をしていた。
アジアの混沌がまだ往来のあちこちに残っていた10年前。
アジアの安宿街らしからぬ小綺麗な店まで登場した現在のカオサン。
僕がよく通っていたオープンカフェは、今やグランドピアノを置いた瀟洒なレストランになっている。
「タイは若いうちに行け」という。
7年ぶりにここにやって来て、その意味が少しわかったような気がした。
<<続きを隠す