
1997年8月30日深夜、パリ。ダイアナ元皇太子妃事故死−。
本作品は、ダイアナ元妃の事故直後7日間のエリザベス女王の姿、2人の間にあった確執、そして、女王のふるまいの奥にある英国の昔と今を描いた。
主演のヘレン・ミレンはヴェネチア国際映画祭で最優秀女優賞、アカデミー賞で主演女優賞を受賞。一躍時の人となった。派手な立ち回りはないが、女王の歩き方まで研究したという演技は観る者を唸らせる。あぁこれが英国映画の真骨頂だな、と鑑賞中何度も思う。
女王が生まれたのは1925年、すでに大英帝国が衰退しつつある時代。それでも世界中に植民地を持ち、“日没することのない帝国”と言われていた時代だ。エリザベス女王は、大英帝国盛んなりし日を知る「最後の人」である。
もともと英国人は、日本人以上に、伝統と格式由緒因縁を重んじる。その元締めである英国王室に、新しい時代を代表するようなダイアナ元妃がなじめなかったのも無理はない。
さてそれよりも。
スキャンダラスなニュースばかりが目立つ英国王室。それが、英国人監督によってこんな形で映画化されたことに、僕は英国人の良心を見る。作品中のエリザベス女王の言葉は、まるで父祖の声を聴くようである。新しいものを取り入れることはもちろん大切だけれど、「伝統」をないがしろにする国に未来はない。女王の姿は、それを静かに物語る。
まして、歴史と伝統に彩られた英国の戴く王は、彼女のような人物をおいて他にない。そんな思いを持ちながら、僕は劇場を後にした。
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