モロッコに限らず、イスラムの国の都市には、古くから栄えてきた旧市街と、近代以降に発展した新市街とがある。観光スポットの多くは旧市街にあり、新市街には鉄道駅や中高級ホテル、ブティックなどが建ち並んでいるというのが通例だ。
これは１９世紀から２０世紀の前半にかけて、イスラムの国々を植民地にした西欧列強が、従来の街をそのままにして、隣接地に近代的な街並みを建設したのが、そのまま現在まで続いたためである。モロッコの場合も、大きな町の新市街に行くとフランス風の建物が目立つようだ。
イスラムの国々の国民にすれば、あるい不本意だったかもしれないが、こうした都市の発展のしかたは、文化的見地に経った場合幸いであったというべきだろう。日本では京都のような町でさえ、歴史的景観と都市の発展という相矛盾する２つの力がせめぎ合いながら、結局はその風韻を失いつつある。イスラムの古い町の旧市街を歩くたび、僕は歴史情緒に溢れたそれらの景色の中で今も暮らす彼らの豊かさに羨望の思いを禁じ得ないのである。
一日、土産物を求めて僕はフェズ・エル・バリの大スークを縦横に歩き回って、１０００年の時間の重みをそのままに残した景色を存分に味わった。
地震でもあって全壊せぬ限り、未来永劫、フェズの空にはアザーンの朗々たる声が響き続けるだろう。
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