大きく傾いた太陽が、シェビの大砂丘にオレンジ色の日を注いでいる。見渡す限りの砂の原に時折風が吹き抜けて、サハラの峰の形を微かに変えていく。その緩やかにうねる砂の丘に、僕らを乗せた7頭のラクダの影が長く延びて、一歩また一歩と歩みを進めている。
メルズーガの宿で、ラクダツアーを斡旋しているというアリの車に乗って、僕はホテル・ロアジスまでやって来て、同ホテルのラクダツアーに参加したのだ。1泊2日で400ディラハム。苦労して奥地までたどり着いた甲斐あって、マラケシュやワルザザードあたりのツアーに参加するよりだいぶ安い。
日の入りに合わせて5時半に宿を出発した一行は、2時間かけて砂丘を歩き、ノマドのテントが張ってある窪地に到着した。案内の老人がさっそく一行の食事の仕度を始める。ツアーに参加したのは、フランス人が3人にベルギー人夫婦、かく言う日本人は僕と松本君の2人。
本日の夕食は、代表的モロッコ料理のタジンとアラビアパンだ。これにサラダとメロンのデザートがついて、砂漠ツアーにしては豪華な夕食である。
生きとし生ける者が近づくことのないサハラの大砂丘は、一切の物の音の絶えた、静寂が支配する世界だ。どこまでも青いマグレブの空と、永年太陽に灼かれて赤みを増した砂の景色が、多くの旅人の心を妖しく誘って止まない理由を知るには、やはり一見の必要があるのかもしれない。
サハラを見ずして、モロッコの真諦を味わうことはできない。
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