噂に聞いていてオート・アトラス越えの難所は、噂ほどの悪路ではなかった。つづら折の山道を、僕を乗せたローカルバスが力強く登っていく。標高が高くなるにつれて草木の背丈が低くなり、むき出しの岩山の連なる光景が、その向こうに広がっている。
オート・アトラスを境に、気象は一段と厳しさを増してくる。それもそのはずだ。山脈の向こう側は、サハラ砂漠の西端にあたり、砂漠に至る広大な大地には数本の川が流れて、そのほとりに豊かなオアシスを形成している。
マラケシュを出発して5時間。ワルザザードに到着したバスを降りて、僕は陽射しの強さに今さらながら驚いた。砂漠は今回が初めてではないが、モロッコの砂漠は太陽が少し近づいたのじゃないかと怪しまれるような暑さだ。ある旅人から、アフリカで最も暑いのはモロッコだという話を聞いたことがあるが、その説もあるいは本当かもしれない。
この暑さに加えて腹痛で食事抜き、酔止めを飲んだ僕は前後不覚に陥りそうな有様で、車窓の景色を楽しむどころじゃない。カスバ街道と称して、古代の要塞跡が続くティネリールまでの道のりは、僕には名所どころか、狭苦しい車内で暑さに堪える苦行に外ならなかった。
<<続きを隠す