芥川作品で今まで読んだものといえば、『羅生門』と『蜘蛛の糸』くらいしか記憶がありません。そもそも文学にはあまり馴染んでこなかったので、この歳になって今慌てて読んでます。英国人の教養ある人物が皆シェイクスピアをたしなむのなら、日本人は自らの国民的文学を知るべきです。
近ごろ、古本屋で『地獄変』(集英社文庫)を見つけて、芥川作品に触れるチャンスを得ました。この文庫には『地獄変』のほかにも11の短編が収められているので、気軽に読めるのが嬉しい。『芋粥』『鼻』『トロッコ』など、見知った作品もあります。いまさら気がつくのも恥ずかしいのですが、そういえば教科書で読んだな、という作品が多いですね。
三島由紀夫の『豊饒の海』4部作を読んだ時、三島は哲学者のようだと思いました。で、今回の芥川短編集を読んでの印象は、まるでスナイパーだ、というものです。人間の本質をズバリと、しかも端的に描く。何だか僕の師匠の夏彦翁のようです。
ただ、夏彦翁は「真面目なことを言う時は常に笑いを帯びなければならない」と言ったのに対し、芥川作品は常に真顔で、ものによっては深刻な表情で語っているように感じます。あの肖像の鋭い視線が、そう思わせるのでしょうか。
昭和2年7月、「ぼんやりした不安」という有名な文句を残して、彼は自殺を遂げました。
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