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その4 黒い浜(後)

東京海洋大学の兼広春之教授によれば、海洋ごみは一般に「マリンデブリ」と呼ばれ、海岸漂着ごみ以外にも海面を漂流するごみ、海底に堆積するごみがある。とりわけ最近ではプラスチック廃棄物による汚染が深刻で、世界の海に流れ込む年間数百万トンからのプラスチックが、漁場環境や生態系に悪影響を与えている。しかも、プラスチックはその性質上ほとんど分解しないから、一度海に出てしまえば半永久的に海を漂い続ける。
こうして海を漂った末に流れ着いた様々なごみは、日本の浜や漁港、港湾を埋めている。実は、これらのごみは、内陸部から川を下って海に流れ出したものも多い。国土交通省、林野庁、水産庁が平成十四年度に駿河湾で行った調査では、海岸利用による生活ごみは全体でたったの八%に過ぎず、河川から流出したごみ(木質系自然ごみ八二%、生活ごみ一〇%)が大半を占めるという結果が出た。海岸漂着ごみの内容は、その地域の如何によってかなり差があるから、この調査結果を以て全体を評することはできない。が、内陸部に住む人間は海岸のごみには無関係だ、などというのは問題の本質を理解しない見方で、人間の生活が自然環境に与える影響に対して、全く無感覚なる譏りを免れない。

 海岸漂着ごみの処理については、国としての統一的な対策はなく、住民やNPOのボランティアに頼っているのが現状だ。近年、海岸の美化に対する住民の意識が向上してきたことで、全国の延べ清掃活動回数は年間一万八千回を超えるという。しかし、兼広氏によれば、これだけ海岸美化への取組みが活発になったにも拘わらず、海岸のごみは一向に減る気配がない。また、排出者を特定できない海岸漂着ごみは、当該市町村が処理費用を負担するか、「事業系一般廃棄物」として清掃活動当事者が負担するという、馬鹿らしい事態に立ち至る場合がある。どこからともなく流れてきたごみを、被害者であるべき市町村や回収当事者が費用負担して処理するのでは理屈に合わない。国による積極的な対策が待たれるところだ。

 美しい夕暮れの光景を観ることができる浜の一隅に、地元の小学生が詠んだという一編の詩が掲げてある。

 「黒い浜 歩くウミガメ 泣くばかり」

 激烈な生存競争を生き抜いて、卵を産むためにやっとの思いでたどり着いたウミガメを、ごみの山で追い返してはいけない。
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