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その3 黒い浜(前)

黄緑色の実をつけたアダンの木が茂る中を、潮風が吹いてくる方角に向かって歩いていく。目の前に広がる遠浅の海の遙か沖で、クリフにぶつかったうねりが白い波頭を揚げている。そこから珊瑚礁を隔てて筆者の立つ白い砂浜には、穏やかな波が薄紗(はくしゃ)の縮れたようなしわ皺(しわ)を寄せている。空と海との境界は朧気(おぼろげ)な霞のうちに溶け込んで絵画的にぼかされ、見る者に、遠い遠い海の彼方のニライカナイを連想させる。
人間の生存には、一定の空気と、一定の水と、一定の広袤(こうぼう)を要することは魚の水におけるがごとしだが、大都市の人間は、空気も水も自ら造ることはできず、さらに広袤までも今やほとんど奪われて、息の塞がりそうな毎日を暮らしている。で、折々地方の海や野山に赴いて本然の姿を取り戻そうとする訳だが、野山のみならず海の景観もまた、次第に脅かされつつある。

 島の南部に、かつて、産卵のためにたくさんのウミガメが上陸したという美しい浜がある。東シナ海に面したこの浜に、南の島の美しさを求めてやってきた都会人は、その予想外の光景に呆然と立ちつくすより外はない。真っ白な浜一面が、大小様々なごみで足の踏み所もないほどなのだ。サッカーボール大の浮き球、漁網やロープのような漁具、ポリタンク、空き缶、ペットボトル、朽ちたドラム缶、古タイヤ、電球、廃油の真っ黒な塊、タバコの吸い殻、また流木や海草など自然のごみ(?)まで、永年海を漂った末に打ち寄せられたものは実に様々だ。台風が通過した後などは、殊に激しい量のごみが押し寄せるという。

 その浜は、近隣住民のボランティアによって、年に二、三回の清掃活動が行われている。しかし、半年も経たぬうちにこの有様になるのだという。しかも、国内からのごみ以上に中国語やハングル文字の入った外国からのごみが多いというに至っては、海岸漂着ごみの問題がすでに国際的性質を帯びていることが解る。幾月も波に洗われた末にこの美しい浜に流れ寄るのが、藤村(とうそん)のいわゆる椰子の実ではなく、これら無数のごみであることに、筆者も嘆息せざるを得ない。
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