09.栄光の面影
2005.05.21 Saturday
かつて「七つの海に太陽の沈むことのない」と言われた大英帝国の栄光を、そのまま現代に保った場所があるとすれば、それは大英博物館をおいて外にないだろう。1753年のスローン・コレクションの公開を基に、ヴィクトリア朝には世界中の植民地からあらゆる種類の宝物を集め、年間700万人と言われる訪問者を迎えている。
ギリシャ式の正面入口を入ると、来館者はグレート・コートと称する大広間に出る。天井ガラス張りの堂々たる空間で、「The Museum」の称に背かない光景だ。グレート・コートの入口を入ってすぐの所にはインフォーメーション・デスクがあって、僕もここで最も安い2ポンドの館内マップを購入して、さっそく拝観に及んだ。
英国はかつて、アジアから中近東、アフリカ、南北アメリカに無数の植民地を保有したが、その世界中の植民地から奪ってきた文化遺産の量たるや、実に膨大なものだ。いずれも国宝級の宝物が並んでいるのだが、それら全部にいちいち感心して観ていたら、1週間を費やしたって観切れるものじゃない。
時間的には旧石器時代から近代、空間的にはヨーロッパから中近東、アフリカ、西アジア、インド、中国、極東までを網羅したこれだけの規模の博物館は、今後造られることはないだろうというガイドブックの説も、強ちデタラメではない。
今のグレート・コートのある大広間は、5年前まで、リーディング・ルームすなわち閲覧室になっていた。ヴィクトリア朝時代に、貧しい学生にも利用の機会を与えるために開設したものであったが、『資本論』のマルクスをはじめ、ガンジー、孫文、レーニンや日本の南方熊楠など、東西の偉人たちも連日ここに通っていたらしい。かつて、ディケンズの言う「みすぼらしくも上品な人々」で満たされていたリーディング・ルームは、規模を縮小しつつも円形ドームの下に再開されている。
上品ならざる僕のような者でさえ出入り自由なのは、実に英国の平民主義の実現である。ルールばかり気にする日本が、官僚主義の依然たるのも無理はない。
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