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わが祖父

君の最も尊敬する人物はだれか、と問われたら、僕は即座に、わが祖父である、と応えます。僕が産まれた時、すでに町長だった祖父は、その眼光たるや、往年の横綱千代の富士を見るようで、子供心にいつも迫力を感じて、これはただの祖父ではない、と内心畏怖していたものです。
長年故郷の町の議員そして町長として、政治家の道をひたすらに歩んできた祖父が、中央では名町長の呼び声高く、かなり名の通った人物だったとは、今の仕事に拘るようになって、初めて知ったことです。
 25歳で村議会議員に初当選を果たしてから、選挙に打って出ること13回、51年の間、常に選挙民の信任を失わなかったことに、今さらながら、僕は驚倒しています。しかし、その祖父が、わが故郷の名誉町民の称号を受けるまでになったのは、産まれ持った能力よりも、弛まぬ努力の結果だということを、僕はよく知っています。人間死ぬまで勉強だ、と言って生涯読み続けた本の山が、蔵の中には満ちています。

 僕は、祖父に褒められたことは殆どありません。長じて祖父と同じ道を選んだ僕は、年に数回の帰郷のたびに、たくわえた浅学をぶつけて挑もうとしますが、祖父はいつも禅問答のごとき回答で煙に巻いて、「お前なんぞ、まだまだ甘い」と笑っています。それでも僕は、自分こそ敬愛する祖父の志を継ぐ者だと勝手に信じて、懲りずにまたぶつかっていくのです。

 その祖父が、先日、ついに天上の人となりました。なんだ、教わりたいことはまだ山ほどあったに、と悔やしがる不肖の孫を、祖父は今ごろ雲の上から眺めて、人に頼るな、あとは自分で考えろ、と言っているでしょう。
 生涯の目標を得られたのはこの上ない幸せながら、登るには如何にも難儀な山を目標にしてしまったと、僕は内心、嘆息しています。
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