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11.2つの記念碑

倫敦は、ヨーロッパの都会の中でもとりわけ古い町で、その成立はローマ時代に遡る。当時の倫敦は今よりずっと東にあって、倫敦塔を中心に、シティーの辺りに町が広がっていた。倫敦を征服したノルマンディー公ウィリアム、即ちウィリアム征服王は、ここに城を築いて支配の拠点としたが、これが今では倫敦名所の1つとなった倫敦塔の起こりである。
テムズ河を西から下り、ロンドン橋をくぐると、正面にタワー・ブリッジの妖しい塔が2つ聳え、左手に倫敦塔が見えてくる。21世紀の現代にあって、中世趣味の記念碑が並んで建った図はいかにも倫敦的だ。

 僕は例のごとく地下鉄に乗って倫敦塔の裏手のロンドン・ヒル駅で降り、倫敦塔へ向った。塔内拝観のためには13.5ポンドという破格の入場料を要するが、これを渋々支払って中に入る。さらに3ポンドで音声ガイドを借りると、お上り連と一緒になって逐次拝観に及んだ。

 倫敦塔は、元来は王の居城兼砦として造られたものだが、牢獄としての歴史が長いために陰惨なイメージを免れない。国王ヘンリー八世が愛人と結婚するために断頭台に送られたアン・ブリンの話や、リチャード三世によって暗殺されたエドワード四世の2人の王子の話など、いずれも死にまつわる話ばかりだ。 漱石が「最も憂鬱の2年なり」と言った倫敦滞在で、珍しく『倫敦塔』という小稿を書いたのは、塔の暗い印象と自らの内向的性格の波長が合っていたのかもしれぬ。

 僕には、昨夜観たタワー・ブリッジの妖しくも美しい姿が印象されてならない。実際に観るライトアップされたタワー・ブリッジと、夢の中の景色とが目の前でシンクロして、空想の世界が現実に現れたように感じられる。
 平和の倫敦には、美しい光景がよく似合う。
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