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7.オリエントの真珠

 闇の原一面に広がった町の明かりが、まるで宝石を散りばめたようにきらめいている。アラビアの乾いた空気が、僕のいるカシオン山の上に吹き上げてくる。あまり凹凸のないダマスカスの町が放った五彩の光は、そぞろに「オリエントの真珠」の名を思わせるに十分だった。
 今やシリアの首都として中東に冠たるダマスカスは、4000年の歴史を誇る古い町である。一国の首都として、東京の銀座や青山のようにきらびやかな通りもあるが、まずは、オールド・ダマスカスと呼ばれる一帯に足を踏み入れて見るべきだろう。

 12〜13世紀以来の石積みの市壁に囲まれた旧市街は、ローマ時代にその基礎が築かれたというだけ、歴史を感じる街である。「まっすぐな道」という名の曲がった道は、今はタダの道に過ぎないが、これまたローマ時代以来の古い往来だ。
 この「まっすぐな道」から路地に入ると、砂色の日干しレンガの家が軒を連ねる迷路のような一帯に入る。首都の喧騒から隔てられた狭い往来に子供たちの声が聞こえるなども、見逃しがたいアラビア的光景だ。
 僕のガイドブックにはないが、旧市街とその周辺には、最盛期で1000以上のモスクが建っていたらしい。そこかしこからアザーンの声が聞こえていたであろう往時の姿を偲ぶのも珍とするに足る。

 もうひとつ、オールド・ダマスカスに有名なるがスーク・ハミディーエである。ダマスカスの歴史始まって以来、このスークはダマスカスと共にあり、現在も無数の外国人、現地人を呑み込んで絶えることなく賑わう大スークである。
 アレッポのスークと違って堂々たる大通りに様々な商店が軒を連ねた光景は、「オリエントの真珠」と謳われたダマスカスの大スークたるに背かない。観光客用に多少高級化して、僕のような貧乏人にはあまり向かないのはちょっと残念だが、今後もこのスークは、世界各国人によって栄えていくに違いない。

 ダマスカスの夜の輝きと静寂のうちに、僕はこの町が刻んできた4000年の歴史に思いを巡らした。今僕の目の前にあるダマスカスは、その歴史を秘めながら、誇らしげにたたずんでいる。
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