先月職場で歯科検診があって、君には3本の虫歯があると宣告されました。三食の後の歯磨きは欠かさないでいても、虫歯の禍を免れることはなかなかできないものです。診断書には、早々に治療を施すべしとあるばかりか、ご丁寧にも診断した歯医者のパンフレットがついています。
好き嫌いは少ない僕もタバコと歯医者は大嫌いで、この二つだけは、できれば遭遇しないで一生を過ごしたいと思っています。しかし、虫歯は放っておいても悪化する一方で、治ることは絶対にないと脅されて、僕は渋々歯医者通いを決意しました。 まずは予約をせずばなるまいと、恐る恐る受話器を取りました。電話口に出た助手のお姉さんは、一大決心をして電話した患者の心中など気にも留めず、「今日にもお出でください」と、さっそく無理な注文を突きつけます。即日からの出頭はご勘弁願っても、1週間の執行猶予は矢のごとく過ぎるもので、結局僕は俎上の鯉になる運命を免れません。
あそこの歯医者は優しいし、助手もなかなかの美人だと、僕は兼ねてからこの医院の評判を聞いていますが、治療が始まったら最後、そんなことは頭から吹き飛んでいます。そういえば、横のテーブルには恐ろしげな道具が幾つも並んでいた、今先生が助手に要求したのはどんな器具だろう、そんなに削っては神経に達するのではあるまいかと、気もそぞろになって脂汗が流れます。30分たらずの治療時間は無限にも感じられて、いつまで経っても終わる気配がありません。
長い長い治療の後に、拷問台ならぬ治療台から解放されて、僕はフラフラと起き上がりました。3本の虫歯中1本の治療もまだ終わらないのだから、この先何ヶ月かはあの苦しみが続くでしょう。先生がいくら優しくても、ちょっと美人な助手がいても、歯医者通いはやっぱり嫌なものだと、僕は改めて感じています。
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