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サイゴンの往来

 ベンタイン市場から市民劇場へと延びる目抜き通りを歩きながら、僕は、往来を流れるおびただしいバイクの奔流に呆れかえった。朦朦たる排気ガスがあたりに立ちこめて、ベトナム人でもマスクをしているのが大分ある。
 往来の密度において、サイゴンは世界一といっていいだろう。市内中心部の公共交通機関がバスのみという事情ゆえ、すべての人間が往来に押し寄せて、朝から晩まで大混雑を呈している。しかも、車一台に対するバイクの割合は20台くらいで、2人乗り3人乗りも珍しくない。荷物を山に積み上げて、フラフラになりながら走っているのもある。
 これだけの人間が、いったい何用あって、どこへ向かうのかというくらいの、とにかく膨大な数のバイクが1日往来を埋め尽くしているのだが、これが事故もなく新陳代謝して行くのかというと、やはりそうでない。交通事故の割合は日本の数倍に上るとガイドブックにはあった。

 外国人にとって、サイゴンの往来を歩くのは一種の冒険事業だ。T字路や十字路などには信号のないところも多いから、途切れのないバイクの流れを縫うようにして渡る。しかも路上では車両優先で、横断中は無数のバイクが歩行者目がけて向かってくる。往来の真中であまりマゴマゴしていると、ただちに轢き殺されないとも限らないから、横切る時は年中命懸けだ。

 これに加えて、サイゴンは引ったくりの類が常に歩行者を狙っている。近年は特に治安が悪化していて、泥棒天国と言う者もあるくらいだ。多くはバイクに乗って、歩行者を後ろから襲って荷物を強奪する。歩行者は、事故による生命の危険と、強盗による持ち物の危険とを警戒して、1日歩く頃にはクタクタになってしまう。

 アジアを旅していると、日本の往来の整然たる光景が懐かしくなる。それを思わせる最も混雑の激しい町がサイゴンである。
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