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16.ケンジントンの森で

 ケンジントン・パレスの前にあるラウンド・ポンドのほとりにたたずんで、羽を休める白鳥の群れを眺めていると、自分がヨーロッパの大都会にいることがウソのような、一種清浄なる空気に洗われて陶然たる心持がする。悲惨の死を遂げたダイアナ元皇太子妃の住まいであったケンジントン・パレスは、レンガ積みの素朴な姿で、妃の魂を今も悼んでいるかのようだ。
 ピカディリ−・サーカスの刺激的な街並みに大挙して押し寄せる日本人が、ヴィクトリア・エンバンクメントの優雅な並木道や、ケンジントン・ガーデンスの渺茫たる森を閑却するのは、今も昔も同様のこととはいえ、あまり感心すべきことではない。倫敦滞在の最終日を迎えた僕が、ほとんどテムズ河とケンジントン・ガーデンスで過ごしたのは、これらの景色のうちに、普段の倫敦を見ることができると思うからである。

 クリストファー・レンが全霊を傾けたセント・ポールの大伽藍を眺めた後に、ヴィクトリア・エンバンクメントをぶらついて、ウェストミンスター・パレスの対岸にあるアルバートエンバンクメントのベンチに腰掛けて、サンドイッチを食べるなどは、倫敦的な空気を味わうには申し分のないコースだ。
 さらにウェストミンスターからバスに飛び乗って、行く行く倫敦見物をしながらマーブル・アーチで降りて、ハイド・パークとケンジントン・ガーデンスを散策する。ピカディリ−の刺激的な色彩と、ケンジントン・ガーデンスの鬱蒼たる森やテムズ河の流れのどちらに真正の倫敦が存するかは確かに問題だが、僕は断然、後者の景色を愛する。生存競争のいよいよ激烈な現代においても、なお頑として動かぬこれらの風景がある理由に想いを致すことができたならば、その人は、はるばる倫敦まで来た甲斐があるというものだ。

 ピカディリ−に出くわす日本人の群れが、かかる風景のうちにあまり見られないのは残念と言う外はない。陽の射し始めたケンジントン・ガーデンスの森で、僕は今日ある幾多の倫敦的色彩に出逢ったことを、無上の幸運だと思った。
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