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15.英国料理

 「英国の食事はどうしても好きになれない。」
 僕の同室になった中国人の雲昭君が、渋い顔をしてそう言った。彼は倫敦で服飾の勉強をする優男で、日本人の僕を見つけて、昨日からいろいろな会話を交わしている。
 英国の食事は、一般にまずいのをもって聞こえている。一番の名物は、今僕らが食しつつあるイングリッシュ・ブレックファストだ、などと陰口をたたく者もあるくらいだ。そのクセ料金は概して日本よりも高めで、僕のような貧乏人はいよいよ英国料理に悪印象を持たざるをえないことになる。

 数少ない英国料理の中で、比較的僕らに身近なのがフィッシュ・アンド・チップスだろうだ。値段は決して安くないが、まずは英国式ファスト・フードとでも言うべき料理で、往来にもそれを食わせる店が多い。ブロックに切った魚とフライド・ポテトを大きな皿に山盛りにして、ケチャップやタルタルソースで食べる。持ち帰りも自由で、公園のベンチなどでこれを食べる倫敦人もたまに見かけることがある。

 あまり知られていないが、ビーフ・ステーキも有力なる英国料理のひとつだ。狂牛病問題でいくらか影響はあったが、依然として倫敦にステーキ・ハウスの数は少なくない。僕も、話のタネにピカディリ−・サーカス辺で1度ステーキ・ハウスに入ったが、10ポンドくらいで立派なステーキが食えたから、倫敦の物価に照らすとあまり高いほうではないと言える。

 英国というと、すぐに紅茶を連想する外国人は多いが、最近ではコーヒーショップが爆発的に増えている。日本で見知ったスターバックスのほか、類似したコーヒーショップが往来に目白押しのところもある。紅茶文化を信奉する者の中には、こうした風潮を嘆く向きがあるようだが、僕は倫敦でコーヒーショップが増えることに、あながち反対するものではない。
 かつて倫敦ではコーヒー・ハウスが大流行した時代があって、18世紀の初頭には、倫敦中で3000件以上の店が営業していたという説がある。最近の傾向は、倫敦が昔の記憶をにわかに思い出して、21世紀の現代に実践しているに過ぎない。

 コーヒー党の僕には嬉しい限りだが、タバコも酒もコーヒーもやらない雲昭君のような者には、あまり有難くない傾向だろうと、僕は街のコーヒーショップで想像した。
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