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13.バスの屋根から倫敦見物

「バスの屋根から倫敦を見よ」
 19世紀後半の大政治家グラッドストンは、倫敦の街を評するに、こんな言葉をもってしたらしい。グ翁の名言は、当時往来を盛んに練っていた乗合馬車を言ったものだが、現代の倫敦で実地にこれを体験するとすれば、すっかり名物になったダブルデッカーの赤いバスをおいて外にない。
 バスには膨大なルートがあって、倫敦人でさえ空で覚えている訳ではないから、方角を見定めたら、まずは闇雲に乗ってみるがよい。地下鉄で通り過ぎていたポイントとポイントが線でつながって、倫敦のアウトラインを得るには極めて効果的だ。
僕は今朝、宿の前の停留所からバスに乗って2階座席に座り、グ翁のいわゆる「バスの屋根から倫敦見物」を実践しつつチャーリング・クロス・ロードへと向った。
 この往来は古本屋があるので有名で、オックスフォード・ストリートからトラファルガー・スクエアに延びている通りだ。行く行く往来を歩いていると、東京の神保町ほど軒並みではないが、ポツリポツリと古本屋がある。漱石も留学中にはここに随分通ったらしい。
 中には、革張りの古めかしい本が頭上高くに並んだ横に、梯子が立てかけてあるような店もあって、古倫敦を偲ぶには相応しい往来だ。

 古倫敦というと名前があがるのが、新旧ボンドストリートだろう。三百何十年か前に、サー・アーサー・ボンドという人が造った往来だそうだが、古くから倫敦一の贅沢屋町で通っていた。
 オックスフォード・ストリートの繁華な辻から入ると、あまり人通りの多くない往来の両側に、金銀宝石、時計骨董その他あらゆる物品の高価な店が並んでいる。日本でも見知ったバーバリーやロレックス、グッチ、アルマーニ、ルイ・ヴィトンの看板も立っている。中には1775年創業と銘打った扉の下のウィンドウに、2000ポンド、3000ポンドという馬鹿らしい時計を並べている店もある。
 要するに、昼飯代をいちいち気にする僕のような貧乏人には一番縁遠い往来だ。

 倫敦に来てもあまり物などほしがらず、グ翁の言に従って、バスの2階から街を眺めるのが、倫敦においては、最も経済にして効果的なる娯楽である。
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